【新】『東大阪むかしむかし』
後編 花は桜の鷲尾山、人は金でこころ散る

長右衛門屋敷の台所には大坂の料亭から板前が呼び寄せられ翌日のため腕を振るっており、長
右衛門自慢の庭にも大勢の庭師が入って手入れをしております。
百姓身分とはいえ長右衛門、河内木綿で蓄えた豊かな財力と実直な人柄で、庄屋として領主家中から厚い信望を受けておりました。
なにごとも長右衛門に任せておけば間違いない、と・・・
「舟が着くぞ~」 そうこうするうちに、たちまち明くる朝。
恩智川の船着場に、鴻池善兵衛一行をのせた舟が到着いたしました。
おりてくるは鴻池の大旦那に蔵屋敷のお役人、つづいて取り巻きの芸者芸人衆。
「いやぁ、空気きれいわぁ。」
「山も青々して美しおまんなぁ、姐さんみたいや。」
「ま、いやらしな、そんなこと言うて。」
そらそのまた一行の賑やかなこと。
「さあさ、皆様方、遠いところようこそおいで下さいました。手前がこの日下村の庄屋を務めまする、森長右衛門でございます。鴻池の大旦那さまには、かような片田舎、失礼とは存じましたが、なにせ今が桜の一番の見ごろ。むさくるしきところではございますが、ごゆるりとお過ごしくださりませ。」
さっそく一行、辻子谷から鷲尾山へと桜見物へと参ります。
鷲尾山の山桜を愛でて、贅を尽くした弁当を遣い、庄屋屋敷に帰ってまいりますと、もうはや七つ時(午後三時)、さっそく宴(うたげ)となりました。
鯛の焼きもん、ウナギの焼きもん、酢のもんは塩貝にくらげ、よめなに干し大根のしたしもん、あれこれ二十数種類、一汁六菜、まさに山海の珍味でございます。
たらふく食うて、腹いっぱいになったころ、ようやく宴もはねまして、船着きに舟が着いたとの知らせが入ります。
大坂までは、恩智川を角堂(住道)へ、寝屋川から淀川、大坂八軒屋まで二刻(四時間)はかかろうか、帰りの船にもお弁当やお土産もつみ込まれ、いざ船出でございます。
あわただしい一日も終わって、費用を見ると、銀一三〇匁(二百万円超)。
金遣わされて、後日改めて蔵屋敷にお礼言上と庄屋様も楽じゃない。
せやけど河内の庄屋はなかなか侮れません、建前はともかく実際は領主家中の首根っこをぐっと握り込んでおります。
金のないのは首のないのも同じこと、武士は金の力で勝てんのやからそんなところで偉そばってなしゃないでしょうな。
世は太平、花は桜で人は金・・・
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