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親子で楽しむ 『東大阪むかしむかし』

その4  暗峠(くらがりとうげ)の「忠犬・シロ」のものがたり2015/06/21

むかーしむかし、暗峠には忠犬シロがおったんやでー

昼なお暗い暗がり峠

生駒の山に、大阪・奈良を最短で結ぶ奈良街道の一番の難所、「暗がり峠」があります。

古くから、「闇上峠」「椋ケ嶺峠」とも記され、字面の如く、樹林の鬱蒼(うっそう)と茂った昼なお暗い山越えの道であります。

つづら折りの少ない直線的な急勾配が続き、「あまりに険しく馬の鞍(くら)がひっくり返るので、鞍返り峠と言われるようになった」という説まで生まれるほどの悪路です。

「神功皇后が三韓征伐に当り、朝、鶏の鳴声で出発したところ、あまりにも鶏が早く鳴いたため、暗がり峠へ着いても夜が明けず暗かった。」だの、「弓削道鏡(ゆげのどうきょう)が和気清麿(わけのきよまろ)を、暗がり峠で暗殺しようとした時、突然の雷雨であたり一面真暗となり失敗した。」などといった暗い伝説も伝わっています。

とにかく、一人ではあまり歩きたくないような、怖い道だったのです。


その暗がり峠への道を、天保六年(1835年)八月の半ば、一人の男と一匹の犬が汗をかきかき上っていました。

暗がり峠をシロは行く

男の名は、大坂の商人・和泉屋弥四郎、伴に連れたるは愛犬の皓(シロ)。

和泉屋弥四郎またの名を「あかつきかねなり」と言い、醤油問屋を営むかたわら文筆や絵筆に長けて「摂津名所図会」などの作品をのこし、自宅で鹿を飼ってみたりしたほどの動物好きの人物です。

その弥四郎、奈良にどうしても行かなければならない用事があって、昼なお薄暗いくらがり峠への道を、しかもあろうことか夕暮れ時にシロと一緒に上っていたのです。



日が落ちて、提灯を下げているとはいえ一町先も見渡せない山道をとぼとぼ歩くのは心細いものです。

 「なあ、シロや。 えらい時刻になってしもうたなぁ、奈良まであとどのくらいあるもんやろか?」

   「ワン」

 「ああ怖、いっこも前が見えへんよって心細うなるわ」

   「ワン、ワン、ワン!」

 「なんや、どないしてん」
 
 すると茂みの中から一匹のマムシが飛び出してきて弥四郎に飛び掛ってきます。

  シロは弥四郎をかばうように立ちはだかりマムシを前足で叩き落として追い払いました。

「あぁ危ないとこやった、シロや、お前のおかげで命拾いしたワ、お前はホンマにエエ子やな。」



しばし休憩したのち、再び山道を登り始めます。

 道はますます暗く、弥四郎もシロも緊張して歩きます。

突然背筋がゾクッと震え、何かの気配を感じました。

シロと峠の山賊(さんぞく)

暗闇の奥で二つの怪しい眼が光りました。

  「ワン、ワン、ワン!ワン、ワン、ワン!!!」

 またしても、はげしく吠えるシロ。

闇の中から、毛皮に山袴・蓬髪(ほうはつ)の男が、山刀をもって姿を現わしました。

 「山賊や!」

いきなり男は、弥四郎に切り付けてきました。

その時です!

シロは、猛然と吠え立て、山賊に向かって飛び掛ってゆきました。

刀を持った男の手をがぶりと噛みつき、引っ張りまわします。

山刀で切り裂かれ満身創痍(まんしんそうい)になりながらも主人・弥四郎をかばって戦います。

凄惨な死闘の末、シロは、山賊の喉笛に喰らいつき斃(たお)しました、が、シロもその場に倒れ伏しました。

「シロや!」

弥四郎は、倒れているシロを抱きかかえましたが、シロは主人の無事を見届けると安心したのか、ぐったりとして息を引き取りました。

その夜の暗がり峠には、弥四郎の嗚咽(おえつ)がずっとこだましていたのです。

嗚呼ゝ霊獣 其ノ生ヲ愛シ死ヲ惜ム

弥四郎は、シロを不憫(ふびん)に思い、峠の中腹の旅籠(はたご)の前に、供養の石碑をたてて弔いました。

旅籠は現在、豊浦の勧成院(かんじょういん)と言うお寺となり、その前にシロの石碑は残されています。

その碑には

館皓寶獣之碑
暁鐘成子 曾有所愛畜之狗名皓
嗚呼霊獣 生愛死惜 埋封建碑 其魂茲宅
天保六歳乙未九月廿一日 暁鐘成 立

と刻まれ、

石碑の前面には、シロであろうと思われる犬の石像が座っています。



そして弥四郎こと「暁鐘成」は、「この世に生を受けたものはみな兄弟、ましてや供にくらし、なつき従う犬はなおさらのこと、世の人々がこの本に学び、このものらを慈しみ大切にしてくれたらこんなに喜ばしいことはない」と今に伝わる日本最初のペットの飼い方の本「犬飼養畜伝」を著しました。
おはなし  ひょこタンのパパ

(その4おしまい)

その5をお楽しみに!

                                 
おまけ。<br>鐘成の愛犬本「和漢今昔 犬之草紙(全6巻)」より<br>暗峠の犬塚の絵。<br><br>ひょこタンのパパの口絵は、この絵を新しく書いてくれていたんですね!<br>
おまけ。
鐘成の愛犬本「和漢今昔 犬之草紙(全6巻)」より
暗峠の犬塚の絵。

ひょこタンのパパの口絵は、この絵を新しく書いてくれていたんですね!

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